ハイソラ

防ぎようがないモンスタークライアントに出会った

WORK

私はあまりスピリチュアルなものは信じないタイプですが、日々生きていると、明らかに「いい流れ」の時と「悪い流れ」の時があるのではと感じます。
仕事の面で、悪い流れの真っ只中にいます。
特に、悪い縁を引き寄せてしまっている感じがするのです。

2年前の記事で、「モンスタークライアントの対処法」という記事をアップしました。
老若男女限らず、直接クライアントとやりとりをされている様々な業種の方から、継続的にアクセスをいただいており、直接メールで感想を送っていただいた方もいらっしゃいます。
嬉しい反面、「みんな同じ苦労を味わってしまう状況は変えなければ」と考えてしまいます。

記事でも書いたような「典型的な」困ってしまうクライアントには、ある程度対処法がわかってきましたし、仕事を始める前に「危ないな」と感じることも少なくありません。
この1年ほどは、スムーズかつクライアントにも喜んでいただき、かつ社会に役に立つことができるような仕事を積み重ねることができたと自負しています。

しかしながら、冒頭に書いたように、ここ1〜2ヶ月でこれまでに会ったことがないタイプの「モンスタークライアント」に立て続けに出会ってしまいました。
「まずは提案を」パターンと、「全てお任せしますけど全部違う」パターンです。
前者は「スペックワーク」(確定ではないが金銭の期待がある状態で、無料で仕事をすること)、後者は典型的なモンスタークライアントのパターンです。
一見すると防げるようですが、大変困ったのは「私の仕事を調べて、理解してご依頼いただいたのに、拒否する」という点です。

心底疲れてしまい、次回からは出会わないように自戒の意味を込めて、また同じような経験をされないように記事にする次第です。
「意外といるいる」「こんな人っているんだ」など、様々な感想を持たれるかもしれませんが、話は盛っていません(一部隠してはいます)。

「まずは提案を」クライアント

新規のご依頼でいただいたクライアントでした。
「良いイメージがなかなかつかない、デザインやウェブへの投資の割に効果が薄いように感じるので、最初から立て直したい」というリブランディングのお話でした。
色々とご自身でも考えているが、なかなか納得がいくものができないというお話。
某所にある先方のオフィスにお伺いし、改めて課題や悩み、会社の概要を伺いました。
最初の打ち合わせとしては、かなり突っ込んだ内容を伺うことができ、ある程度大きな方向性は固めることができました。
予定の時間よりも少々オーバーしてしまいましたので、失礼しようとまとめた時に、事件は起きました。


「私の方でお手伝いできる内容をまとめ、お見積もりをします。まずはそちらをご確認ください」
モンクラ
「わかりました、それではまずはご提案をいただけますか?」

「ご提案の内容は、大まかな方向性やお手伝いできる部分になると思います」
モンクラ
「いえ、そうではなくて、まずはロゴ・ネーミングの案をください」

「それではご契約になってしまいますが、よろしいですか?」
モンクラ
「待ってください、いくつかの事務所に相見積もりをしているので」

「えーっと…、それでは私の案も採用されない可能性があるということでしょうか?」
モンクラ
「もちろん私が気に入ったらその案についてはお支払いします」

まとめると、「まずは提案をしてください、その中で気に入ったものがあれば採用してお金を払います」ということです。
これまでも、納品後やプロジェクト完了後の、後払いでお金をいただくことは多く、全く問題はありません。
気になったのは「契約はせず、相見積もりをとっている段階で、具体的な案を提出させる」という点です。

最後の最後に「指名コンペ」だったと明かされ、これには流石に驚き、「それはできません」と明確にお断りをしました。
しかしながら、これまでの仕事をご覧いただいてご依頼されたとのことですので、「大枠でも構わない」という約束をいただき、その場は後にしました。

後日、簡単なお見積もり、今後のスケジュール、そしてブランディングの方向性をいくつかのパターンにまとめ、お送りしました。
もちろん、そのご提案をする上でも、ああでもないこうでもないと、試行錯誤を重ねています。

返答は「もっと細かい内容で、かつ、ボツにした案も全て見せてください」というものでした。

「全てお任せしますけど全部違う」クライアント

こちらも、新規でご依頼いただいたクライアントでした。
新しく起業されたとのことでしたので、一連のデザインをご依頼いただきました。

もともと私の仕事を見ていただいて、大変気に入ってご依頼いただいた背景があり、私も大変嬉しくなりました。
ご予算が若干きついという相談も受けていましたので、その点についても若干ご協力をしました。

先方のオフィスにお伺いし、打ち合わせをします。
大いに話は盛り上がり、全体的な方向性もご納得いただき、契約も締結し作業にかかりました。
細かな内容については、「どのようなアプローチで考えていただけるか楽しみです」と全て私に一任していただきました。
最後、「私も実は一つだけイメージがあって、こんなイメージなのですが」と、ご自身で描かれた手書きのマークを見せていただきます。
全て一任していただけると伺っていたので、若干の違和感を覚えつつ、よくあることですし、イメージのヒントになることもありますので、拝見しました。


「(手書きの案を見て)どのようなコンセプトですか?」
モンクラ
「アイディアだけで、コンセプトもないです」

なるほど、確かにコンセプトも弱く、イメージだけのようです。
そのほか、私の仕事のロゴで好きなものをお話しいただきましたが、そもそものコンセプトが違う旨をご説明。
その後は私も精一杯仕事をしました。

そして、いざご提案の日。
一つ目の案を説明しようと案を見せた瞬間に「違う、違います!」と大声で遮られました。
「この部分がこう違う、こう違います」と、自分の考えとは違うという意見をとつとつと話されました。
いきなり言われてしまい私も驚きましたが、ラチがあかないので、次の案のご説明に。
すると、パッと見た瞬間に「いいです」、次の案も「次はどんなのですか?」と、資料もめくらず、説明もろくに聞かない状態に。
全ての案を見せ終わります。


「…これで以上ですが、いかがですか?」
モンクラ
「気に入ったものはないです、全部ダメです」

「そうですか…残念です…」
モンクラ
「なんでこのような方向性なんですか?」

「先日のお打ち合わせでも、ご納得いただけましたが…」
モンクラ
「私はこのようなイメージでした」

と、先日拝見した手書きの案をまた見せてきます。
もちろん、その案をベースにした案もご提案していました。


「拝見した案は、ご提案のB案に反映をさせておりますが」
モンクラ
「全然違うじゃないですか」

「モチーフは反映させていますが、いかがですか?」
モンクラ
「形が全然違います」

「以前も伺いましたが、こちらのイメージのコンセプトやモチーフはありますか?」
モンクラ
「そんな小難しいことは考えていません」

流石に困惑を隠しきれなかったです。
その後は、とりあえず拝見した案を作成することにしましたが、聞けば聞くほど細かな指定があり、言葉は悪いですがクソダサいものが出来上がりそうです。
そして、進行形(5時間に一本のペース)で新しいイメージを送ってくる状況。
際限なくイメージが膨らんでいるようです。

例えるならば

「これの何がまずいの?」「イメージがわかない」という方もいらっしゃるでしょう。
レストランで例えるならば、一例目は「しょっぱい料理が食べたいけど、何が食べたいか分からない。麺類でとりあえず何種類かちょうだい。気に入ったらお金払うから。」というものですし、二例目は「なんでも食べますとは言ったけど、ニンニク料理はマストだし、なんか全部美味しくないよね。あと、もっとソース入れた方がうまいよ。」という感じです。

「明確なイメージがあって、それをそのまま表現してほしい」の危険性

以前書いた記事では、共通点が見つかり、そもそも嫌な思いをしないで済むようにある程度の基準を設けて、そもそもお仕事を受けないようにしてきました。
しかし今回の事例では、いわば「見えやすい共通点」があるわけでもなく、話が進んだ上で「ああ、やばかったなぁ」と思ってしまう状況に。

よく考えてみると、いずれも「明確なイメージがあって、それをそのまま表現してほしい」という事例だったように思います。
一例目は、自分で考えたけどうまく表現できないので、色々な案から近いものを探したい事例。
二例目は、自分で考えているけど、綺麗に作れないので代わりに作って欲しい事例。
一例目は「コンペであると明示している」のであればともかく、いずれもデザイナーの仕事ではないと感じます。

ある程度の専門的な知識やこれまでの経験、歴史を総合的に鑑み、「このような状況下だと色はこちらを使うべき」「この大きさだと小さくした時に視認性が著しく悪くなる」など、おそらくクライアント側からすると想像できないほど色々な検討を重ねています。
私自身も、できる限りのシミュレーションをした上でご提案しています。

明確なイメージを持ち、それを共有することは大切なことだと思いますが、強要するのは誰のためにもなりません。
上記のシミュレーションの結果、別の形状の方がいいという判断を絶対的に聞かずに覆すのは、「じゃああなたが勉強してイラストレーターで書き起こせばいいじゃないですか」という話に帰結します。
この部分は以前の記事でも記しましたが、「ソフトが操作できないからデザイナーにその部分を頼む」のは、オペレーターとデザイナーを勘違いしてしまっている典型例です。
本来力を発揮すべき、問題解決の部分であったり、コンセプトをいかにして見つけるかといった部分とは全くかけ離れています。

「チャンスを逃す」という誤った認識

以前似たような記事を書いた際に「気に入らないクライアントをモンスタークライアントと称して愚痴を吐く人は仕事ができない」、「自分の力不足を認識せず、チャンスを逃すだけ」という批判的なご意見も多々伺いました。
そのような考えも、もちろん納得できますので反論はしませんが、我慢した仕事は絶対にいい結果を生まないです。
なので、次にも繋がらず、そもそもチャンスにもならない。
数十万円の報酬を逃すのは確かですが、双方がWIN-WINで完了させたプロジェクトは、その数倍の報酬を生んでくれます。

デザイン業界は、ごく一部のスターとそれ以外であるという意見をよく耳にします。
確かにその通りだと思いますが、スターがごく一部しかいない状況は、全員で作ってしまっているのではないでしょうか。
やせ我慢をし、体育会系の考えで、「文句言う暇があったら、とにかく手を動かせ」という慣習は如何なものかと感じます。

お客さん(クライアント)のいうことを聞く、謙虚な姿勢が大切なのも勿論だと思いますが、時と場合によるのではないでしょうか。
本当に求められているものと、単なるワガママのどちらかを明確に聞き分け、後者は無視する姿勢が大切だと思います。

どちらが偉い、下であるという考えではなく、双方が納得できる環境は、どのように実現させたらいいのか。
人のせいにする気持ちは毛頭ありませんが、「発注者側の意識改革」も必要だと非常に感じます。
どのように打ち合わせを進めるか、またどのように発注をしたらよいのか、どのようなコンセプトを持ちたいのか、そういった基礎的な部分から分からなければ、それを隠したり無理して頑張って作るのではなく、その部分までデザイナーにお願いをするとよいのではないでしょうか。

私の力不足である部分は否定できません。
しかしながら、自分の人生は一番大切なわけですし、そのせいで時間が取られてしまっては、いい関係で仕事をしている他のクライアントに大変な迷惑がかかります。本末転倒です。

「相見積もり」や「大型コンペ以外」を避ける・断られ続けたという話に注意

「契約書を交わして自分の身を守る」ことは大切ですが、契約書は「万が一、何かあった時に守ってくれるもの」なので、防御力はそもそもないんですよね。
もちろん必要ですし大切なのですが、これを作るからといって、モンスターがモンスターでなくなることはありません。

今回、いずれのクライアントも、これまで数社〜十数社にお声がけをしていて、断られているという状況でした。
一例目は単に相見積もりをとっているだけでしたが、二例目は「諦め半分でメールをしたところ、私がOKして安心した」と仰っていました。

相見積もりは、どうしても相対的に価値を見られてしまいます。
公共の仕事であれば、公平性の部分で仕方ないですが、そうでない場合は相見積もりはできるだけ避けるべきです。
また大型のコンペは、勝ち取った場合その社会的影響は凄まじく、やりがいがあるものですが、失礼ながら相手のお眼鏡にかなうか否か判断されるだけのコンペは避けた方が絶対にいい

二例目は、おそらく他のデザイナーの方も、私と同じような経験をしたのでしょう。
「早く言ってよ…」状態です。

大切なことは結局、変な部分、必要ないことに時間をかけるのではなく、自分の力を全力で出せる環境で、全力を出し、評価いただくことだけ。
つまらない時間はできる限り無くしていきたいものです。