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デザイナーはオペレーターではない

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デザイナーはオペレーターではない

先日、「モンスタークライアントの対処法」という記事を投稿しました。
コメントのほかにもメールでご賛同いただくことも多く、皆さん悩みは同じだなぁ…と、感慨深くなっています。

ここ最近、もう一つ、地雷といいますか「これは、今後苦労するんじゃないか」と思ってしまう、クライアントの発言があります。
「僕はデザインわかってるから、デザインは本当大事だよね」という発言です。

「僕はデザインわかってるから」と言われたらまずは身構える

ベンチャー企業や独立を考えている方と仕事をする場合や、そこまで規模が大きくない会社とお仕事をする場合、その会社のトップと打ち合わせや連絡をすることが殆どです。

その際、「デザインが大切なのはわかっているし、私自身もデザインについてはわかっているから安心して」と言われたら、少し身構えることにしています。
この場合往々にして、その会社のイメージや伝えたいことを整理し表現する、本来のデザイナーとしての役目ではなく、イラストレーターやフォトショップなど、専門的なソフトを使うオペレーターとしての役目を期待されていることが多いからです。

デザイナーはオペレーターではない

会社のトップに明確なビジョンがあり、それを強力に遂行することは、どのような規模の会社であれ大切であることは、言うまでもありません。
ただ、実際に目に見えるものに落とし込む際にまで、デザイナーに細かく口を出すのは避けるべきであり、そのあたりはプロに任せるべきです。

デザイナーは表現のプロです。
その色はなぜその色なのか、なぜその線はそこに引いたのかなど、すべての表現に対して説明が出来ます。
逆に説明できないデザイナーは、プロではありません。
経営者は「自分のポリシーとして、赤は使わない」などのポリシーがある場合も多く、それはそれで大切にするべきですが、単に自分の好みや考えをデザイナーに押し付けてしまうのは、会社のためにもなりません。

繰り返しになりますが、ビジョンや言葉、方向性として確固たるものがあることは大切です。
ただ、それがデザインする段階においても出てしまう場合は、デザイナーを雇用したりお願いするのではなく、イラレの勉強をして実際に自分で製作するべきです。

オペレーターになりそうなら一度断る

デザインする側としては、上記のような方と仕事をすることになってしまったら、かなりの戻しと直しが入ります。
明確すぎる「形としてのイメージ」があるため、それと少しでも異なっていると許せないからです。

そのような仕事をしてしまう、デザイナーの責任もあります。
私は、デザイナーがオペレーターとして仕事をしてしまうのは、社会にとってマイナスであるとさえ考えています。
デザイナーの殆どが給与面で悩んでいたり、仕事の振られ方で悩んでいるのは、このような働き方をしてしまうから。
もし、そのようなお願いをされたり、仕事をしている中で「オペレーターになりそうだな」と感じた場合は、「明確なイメージがおありのようですので、一度ご自身で作られてみてはいかがでしょうか」とあくまでも丁寧に提案してみるのはいかがでしょう。
「それを実際に形作るのがデザイナーの仕事だろ!」と怒られてしまうかもしれません。
私も一度経験があります。
ただ、逆に「それもそうですね」と納得してもらえることがほとんどであり、ラフ案が送られてくることもあります。

ラフ案をリファインする仕事として捉えるのも良い方法

いっその事、最初から「ラフ案をきれいにリファインし直す仕事」という認識で向かうのも手段の一つ。
昔から使われているマークを、現代でも、今後何十年と耐えるデザインに進化させる仕事は、醍醐味があります。
それと同じと捉えることも、いいでしょう。

丸投げされる方がずっとマシ

「デザインは門外漢だから、全部お任せするよ」と丸投げをされるのも、直しがとても多くなったり、そもそもプロジェクトが破綻してしまう可能性が高いです。
ただ、これはいかようにも出来ます。

クライアントと何度も何度もコミュニケーションをし、デザインの方向性や全体のイメージについて、しっかりとコンセンサスを取った上で、実際にデザインの作業に入ることで、双方が満足いく仕事ができます。
しつこいと思われることはありませんし、連絡が密になることによって、先方にも当事者意識が芽生えます。
ただ、ちょっとでも「わかってないですね」という上から目線だったり、打ち合わせが面倒で省略してしまったりすると、途端にうまくいかなくなります。

仕事を丸投げされたら、そこはデザイナーの腕の見せ所。
しっかりとしたコミュニケーションをとり、良い仕事ができる絶好の機会と捉えるべきです。

「デザインがわかる」に遭遇した場合

トップの方で、デザインにある程度精通している場合は、自分でやってみることをお勧めします。
デザイナーに頼む場合は、コミュニケーションをして、方向性を確認した上で、実際の制作物には細かい指示は出さない方が良いです。
もちろん、出来上がってきたものがイメージと違う場合もあるでしょう。
その場合は、イメージや言葉でのコミュニケーションに終始し、制作物で細かい指示を出すのはやめた方が良いです。
その方が、予期せず良いものが出来上がる可能性が高い。

デザイナー側は、できるだけオペレーションに終始してしまう仕事を避けるべきです。
そのような仕事になる予感がした時点で、イメージや言語でのコミュニケーションを心がけ、もし効かない場合は「一度作ってみては」という提案をする方向が良いです。
もしくは、実際にラフ案を作ってもらい、それをリファインする仕事だと認識する。
ラフ案ではなく、実際に使われている他のロゴなどを提案されたり、具体的な制作物を出された場合は、「ラフ案をください」と再度提案をする。
きちんとした提案をした上で、仮に仕事につながらなくなったとしても、別に良いではありませんか。
自分が納得して仕事を進めることこそ、良いデザインを生む秘訣なのであり、社会のためにもなるのです。