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『オリンピックデザインマーケティング』はデザイナー必読書

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ここ1ヶ月ほど、「デザイナーは全員読むべきでは」と思える本に2冊出会いました。
今回は1冊目をご紹介します。

『オリンピックデザインマーケティング』を読みました

オリンピックデザインマーケティングの表紙

『オリンピック・デザイン・マーケティング: エンブレム問題からオープンデザインヘ』(加島卓 著、河出書房新社)を読みました。
来年開催される東京オリンピックのエンブレムをめぐる騒動、記憶に新しい人もいるかと思います。
デザイナーにとってセンセーショナルな事件でしたので、このブログでも何度か記事にしました。

本書はその騒動に深く切り込み、国家的なイベントのロゴやデザインを行う時の段取りはどうあるべきか、社会にどのようにして説明をしていくか、できるだけ多くの人が納得できるデザインにするにはどうすればよいか、記述されています。
前半では、前回の東京オリンピックや、札幌オリンピック、長野オリンピックのデザインはどのようにして決められていたか、かなり詳しく説明されています。
これだけでも、デザインの歴史の一端を知ることができ、亀倉雄策をはじめ、日本のデザイン史に名を残しているデザイナーがどのような組織体系でオリンピックのデザインを担当し、どのようにして意思決定がなされたのか、知ることができます。

世界の事例も紹介されています。
2020年のオリンピックのロゴも、パクった、パクっていないという議論がとんでもないことになっていましたが、ロンドンオリンピックの時にも同様に社会問題化した事実にもきちんと触れられています。
後半に連れて歴史が進んでいき、いよいよ東京オリンピックのエンブレム問題がなぜ発生してしまったのか、という解説がなされます。

デザインの書籍は、作り方や展開の方法、デザイナーの思考法といったものが多い中、本書はこれまでになかった「組織の中のデザイン」が語られています。
IOC、JOC、広告代理店の関係、それぞれの利害関係にフォーカスされ、その中でロゴ、エンブレムがどのような立ち位置にあるのか語っています。
ロゴは「作り方」の他に「使い方」が重視されることが多いです。
ロゴを中心に検討されたデザインのルールが、ポスターやチラシ、広告、映像といった様々なメディアに展開されていきます。
しかしあくまでも使うのはデザイナーではなく、企業、組織側にあり、そして使われたものを実際に見るのは、生活をしている人々です。
この全体の連携がうまくいかなければ、オリンピックという国家的なイベントのデザインは成功とは言えないのは明白ですが、一部の人たちだけで決めてしまった事実があります。
本書では特に厚く記述されていますので、なぜ問題がここまで大きくなったのか知ることができます。

オリンピックデザインマーケティングの厚さ

ページ数が多く、厚く重い本ですが、全体的に平易な文章でわかりやすく記述されていますので、あっという間に読めます。
また事実や資料から正確に引用し(巻末の引用数もかなり多いです)、特定の組織の立場に立たず一貫して客観視した記述になっており、読者も冷静に問題と向き合うことができます。

日本のデザインレベルをより上げるためには、技術的な面はもちろんのこと、経営学や社会的な側面もますます重要になってくるのではないでしょうか。
デザインの仕事をしている人、あるいはデザインの仕事を志している人は、全員必携の書籍です。