年末に、はっと気づかせてくれた出来事がありました。
先日、ロゴデザインを担当した会社がある地域の知人から、「ロゴ変えたの?今回はキミ担当した?」と連絡を貰いました。
特にそのような連絡も受けていませんし(ロゴが変更になる事は間間ありますが、今回は担当してから1年くらいでした)、おかしいなと思いウェブサイトを観ると、そのまま。
「ロゴは変わっていないようですが」と返信すると、写真が送られてきました。
そこには、原型は辛うじてとどめていましたが、ほぼ異なるロゴがありました。
言うなれば、Wordのクリップアートがロゴの周りにふんだんに貼付けられて、全く合わないフォントでロゴの上からでっかく、その会社名が書かれていました。
かなりショックで、目を覆いたくなるようなものでした。
目次
ロゴ決定の際は同意をとっていた
ロゴが出来上がった際は、きちんとロゴに関するプレゼンやワークショップを繰り返し、会社のほとんどの方から同意をとることができ、頑張ったかいがあったなぁ、としみじみ思ったものです。
なので、飽きからくるロゴの変更とは、どうしても思えない。
同意の取り方が甘かったのかもしれませんが、それ以上どうする事も出来ないと言うくらい、配慮していました。
原因を探る
なぜこのようなことになってしまったのか、原因を探りました。
ひとまず担当者に連絡をしてみると、当時の宣伝担当の方が既に退社されてしまったということ。
現在は、その会社のトップと、隣の席だった事務の方が宣伝作業を兼ねているとのこと(全員で10名ほどの会社です)。
恐らく、引き継ぎが上手く行かなかったのだと思います。
「ロゴのマニュアルはありますか?」と尋ねると、確かにあると。
「それを基にして展開してもらえますか?」と尋ねると、そうしていたつもりだ、と。
ここで、私にも多いに非があるということが分かりました。
相手は素人であるということを失念した
ロゴの設計は、我々プロが行う事が普通です。
これをご覧の皆さんの会社や学校のマークも、恐らくプロのデザイナーが時間と手間と頭をフルに使って創っているはずです。
ながーく使うものですから、そのようにするのは当然の事です。
ただ、実際に運用するのは、デザインとはこれまで何の接点も持たなかった、デザインに関しては素人が行う事も多いにあるのです。
たまたま部署移動で宣伝部配属になった、とか、今回の事例のように、宣伝担当が居なくなったので、隣に座っていた人が代わりに行っている、とか。
無意識的に、我々がデザインしたものは、当然、それなりのプロが使うという考えをもってしまいますが、それは間違っています。
(一部を)自由に変えることが出来るロゴは、危険だ
最近よくある、一部が柔軟に変化するロゴ。
ダイナミック・アイデンティティーと呼ばれるもので、メルボルンのロゴや、MITのロゴが有名ですよね。
By:Landor(http://landor.com/#!/work/case-studies/melbourne/)
By:MIT Media Lab
※ちなみに、MITメディアラボは2011年にロゴを刷新し、たった3年後に上のロゴに変えました。以下は2011年に展開したロゴ。詳細はGizmodoの記事が詳しいです。
2011年のMITメディアラボのロゴ
今の社会はメディアが世の中にあふれて、一つのアイデンティティーをそのまま展開してしまうと、イメージを伝える事ができないということで、最近注目されている手法です。
この手法、手本にするのは危険です。
実は、今回の事例でも、「ロゴの一部の色を自由に変化できる」「隙間の箇所に写真を当てはめることが出来る」という、展開例を示していました。
これについは、「そうすることもできます」という、可能な展開例として、示したつもりでした。
しかしながら、先述したように、運営するのはデザインのプロではありません。
「色を自由に変化できる」「写真を当てはめることが出来る」という、原則から外れた考え方が、一人歩きしたのではないかと思います。
なので、クリップアートを当てはめてしまったり、色を変えたフォントを使ってしまった。
このように推測しました。
今回のようなことを繰り返さないためには、どうすればよいか。
自分なりに、考えてみました。
対策1:ロゴを使う人は素人だと思え
ロゴを実際に使う人は、デザインに興味がない素人と考えるべきです。
その人たちが、いかにして簡単にきれいにロゴを使うことができるか、そこだけに重視して、ロゴはデザインするべきです。
対策2:安易に、変化させるロゴにしない
ダイナミックに変化するロゴは、それだけでインパクトがあり、様々なメディアへの対応が出来ます。
ただ、そうするためには、きちんとしたルールに基づいた運用をしなければなりませんし、作成にもコストをかけなければなりません。
特に、中小企業やスタートアップの企業は、お金も時間もありません。
その環境下で、ダイナミックなロゴを作成してしまうと、「変えても良い」というまずいルールだけが先行してしまうのです。
ロゴは創った後、どう展開して行くかというところも、創る時と同じ位考え詰める必要があります。
しっかりとした運用ルールに基づいて使っていかないと、それだけでブランドイメージが落ちてしまう危険性があります。
「しっかりとしたルールに基づいて展開できる」確証がなければ、ダイナミックに変化するロゴは使わない方が良いです。
対策3:デザイナーとしてずっと関わる
極論は、ロゴの展開などを含め、その会社のデザイナーとして関わる事だと思います。
ギャランティも厳しいものかもしれませんが、それでも、その会社のブランドイメージを守るためには、極論として、ずっと関わるのがベストだと思います。
今回の事例は、気づくまでに時間がかかってしまいました。
そのために、取り返しのつかない(以前には戻せない)状態にまでなってしまいました。
デザイナーは、クライアントのデザインを担当し、ギャランティをいただいたら、その後、つくったものは会社のものになってしまいます。
だからこそ、お金をいただいて、お渡しするのです。
よく、広告の年鑑、コピー全集といったものがありますが、そこに掲載された物は「作品」として認識してしまいます。
しかしながら、現に広告を手がけたからといって、その広告はそのデザイナーや制作者のものではありません。
広告主のものです。
だからこそ、「○●(会社)は良い広告打つね」と社会に認識されるのです。
もちろん、業界内では、その広告を手がけた人に注目が集まりますが、それは広告業界だけの話です。
しかしながら、ロゴなど、長期的につかうものであれば、お渡しした後も定期的にチェックする必要があります。
きちんと、臨んだ形で使われているか、計算通りになっているか、などをチェックし続ける必要があります。
そのことを忘れてはならないと思います。
当たり前の結論になってしまいましたが、きちんと守らないと、こうなってしまうのだなと、感じさせられました。
二度と、このような過ちを繰り返してはならないと、戒めるためにも、ブログにしました。
ロゴ設計やデザインする際の参考になれば幸いです…。