2020年の東京オリンピックのロゴ騒動は、デザインに携わる人(特にロゴやCI関連を領域にしている人)にとって、ショッキングな出来事だったのではないでしょうか。
さすがに仕事の中で語られることは少なくなりましたが、クライアントからは「パクらないでくださいよ〜」と言われることも少なくありません。
また、最近ではまとめサイトで、他のブログやウェブサイトから文章や写真を勝手に使用していた件が問題になりました。
実はこのブログも一部の写真が、勝手に使われていたことがあります。
目次
表現は意図せずに似てしまうもの
以前から書いていますが、コンセプトからデザインを検討する場合、同じようなコンセプトをもったロゴやデザインが似てしまうことは、致し方無いことだと思います。
そもそも、人類は他の技術や方法を模倣し、自分なりに解釈をし、発展をさせることで進化させた側面があります。
例えば、ロゴを検討する際、コンセプトが「人を中心に考え、それが繋がっているように…情熱と冷静さを両立させる…」というものだとすると、「人がモチーフになっている図形が繋がり、青色と赤色で」というようにデザインされていきます。
そこから、いかにユニークで、コンセプトと表現として美しいロゴにするか、デザイナーの腕の見せ所なわけですが、ここまで社会が発達した以上、どうしても過去にデザインされた何がしかのマークに似てしまっていたり、「どっかで見たことなかったっけ?」というマークになってしまう。
もちろん、パクってはいけませんし、あまりにもオリジナリティーに欠けるものを製作するのは、デザイナーとして失格です。
しかしながら、図らずもデザインが似てしまう、ということはあります。
そしてそのデザインが、企業の雰囲気、コンセプトとしっかり合致する場合、そのまま使用することはあります。
問題は「法律違反」なのか
そこで問題になるのが、法的にはどうなのか、ということです。
法律違反は、決してしてはいけません。
デザインに関係する法律といえば、商標権、著作権、意匠権があります。
粗方の内容は、デザインを携わる人は知っていると思いますが、それぞれ、どのような場合著作権違反になるのか、引用との違いは何か、商標権とはどのようなものなのか、はっきりとわかる人は少ないのでしょうか。
『楽しく学べる知財入門』を読んで
私もずっと気になっている内容でしたので、もう少し踏み込んで学んでみようと思い、『楽しく学べる知財入門』(稲穂健市 著、講談社現代新書)を読みました。
結論として、デザインに関係する人、デザイナーは絶対に読むべき本でした。
平易な文章で、全体的に飽きさせない工夫が見られ、一気に読むことができました。
知的財産権とはなにか
著者は、知的財産権を
人間の知的な創造活動によって生み出された経済的な価値のある情報を、財産として保護するための権利」
として定義しています。
人が汗水垂らして作ったものを、あたかも自分のものとして発表するのはおかしいのは明らかな話です。
ただ、先述したように、人は他の何かを模倣し発展させながら、進化してきた側面があります。
そのため、「保証されている安全地帯」と「保証されない安全ではない地帯」がある、ということです。
豊富な事例
本書は、著作権、商標権、特許権について、豊富な事例を用いてわかりやすく解説されています。
例えば、
- 高島屋と三越の包装紙
- ファービー
- STAP論文と銀河鉄道999
- イオンとイーオン
- 白い恋人、面白い恋人
などなど、それぞれが似ているけれども、権利侵害になっていない理由や、逆に商標として認められない場合、それぞれについて解説されれいます。
なぜAppleのサイトにはアイホンのライセンスについて書かれているのか
特に、iPhoneとアイホンについては大変興味深い内容でした。
日本でiPhoneが発売された際、その商標をめぐって問題になったことがありました。
アイホンは玄関のチャイムで有名な企業。
iPhoneが、その商標権を侵害してしまうのではないか、という件でした。
本書を読めば、いかにしてそれらがクリアになったのか、Appleのサイトに「iPhoneの商標は、アイホン株式会社のライセンスにもとづき使用されています。」と書かれているのはなぜか、はっきりとわかります。
商品のデザインそのものが目印、となった場合は商標登録が可能
ホンダのスーパーカブ、という原付があります。新聞配達やそばの出前で使われる、あのバイクです。
基本的に、商品のデザインは、本来目印として機能することはありません。そのため、原則的には商標登録はできないそう。
ただ、このスーパーカブや、おなじみのヤクルトの容器については、その商品の形状を見ただけで「スーパーカブ」「ヤクルト」とわかるほど、認知度が高い。この場合は、そのデザインが「目印」として機能していると認められ、商標登録(立体商標)として登録された、ということです。
デザイナーは読むべき
デザイナーとして、いかにして他の人の権利を侵害しないか、あるいは権利を侵害されていると感じた場合、知識として知的財産権について知っておくのは大変便利です。
本書ではその全てを知ることは難しいですが(あとがきにも書かれています)、その入り口の部分は知ることができます。
「違法なパクリか」「言いがかりではないか」「こんなに騒ぐことなのか」ということも、ある程度わかることできます。
デザイナーは一度読んでおくべき本でした。